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2019年は多くの金融機関の皆様と迫りくるビジネス変化、デジタル化の波、システムリスクの増加に対応すべく、今後のあるべきシステム像について議論し、共に様々な取り組みを推進させて頂いた。

しかし、本格的なデジタルトランスフォーメーションはこれからという金融機関が多い事も事実である。経済産業省が「2025年の崖」を発表してから約     1年。2025年の崖を越える為の準備期間は限られてきている。大規模なシス  テムのトランスフォーメーション、新たな人材の確保・育成に一般的に5年~10年程度かかる事を考えると、2020年はまさに2025年の崖に向けたチャレンジをスタートするラストチャンスの年と言える。

また、このデジタルトランスフォーメーションの実現には、システムのみならず、人・組織・プロセスに渡る、大規模かつ広範な判断、推進が求められる。この1年、デジタルトランスフォーメーションをシステムだけの問題と捉えず、いかに経営全体の問題として捉え、判断を進めるかが重要になるだろう。

2025年の崖を超えるラストチャンス

2018年9月、経済産業省は『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』を発表した。

あらゆる産業において競争力維持・強化のためにデジタルトランスフォーメーションを進めていく必要がある中で、複雑化・老朽化・ブラックボックス化したレガシーシステムが足かせとなっており、2025 年までこの状況が続いた場合、2025年~2030年の間に国内で最大12兆円の経済的損失が発生する可能性があると予測している。

全産業では80%の企業がレガシーシステムを抱えていると回答しているが、中でも金融機関は100%の企業が何らかのレガシーシステムを抱えており、デジタルトランスフォーメーションの足かせになっていると答えている。

一方で、今後に向けた企画・戦略にも課題がある。70%近い企業がデジタルにおけるビジョン・戦略や具体的な絵姿が足りていないと答えている。

大規模なトランスフォーメーションの実行、人材の育成、教育には一般的に5~ 10 年かかる事を考えると、2020 年は2025年の崖を越え、競争力を維持し続けるためのチャレンジをスタートする、ラストチャンスの年と言える。

デジタルトランスフォーメーションアジェンダ

デジタルトランスフォーメーションに向けた議論は数多く行われているが、以下のアジェンダが該当する場合、中長期的な取組が必要となる為、今年中に対応方針を決定する必要がある。

① レガシーシステムからの脱却

② デジタルプラットフォームの構築

③ 人材/組織/プロセスの構築

① レガシーシステムからの脱却

レガシーシステム対応は進んでいるだろうか。レガシーシステムに関して各社が抱えている問題は様々である。

事業継続リスク:

アセンブラ、PL1、独自フレームワークを保有し、有識者やエンジニアの高齢化、事業継続リスクがある

コスト増加リスク:

メーカーのホスト事業離脱、ISV製品の高騰、COBOLエンジニアの減少に伴うコスト増加リスクがある

柔軟性確保に向けたリスク:

基幹システムが硬直化し、将来の迅速かつ柔軟な顧客サービス提供を阻害する要因を抱えている

これらの対応には多くの場合複数年を要する。既に中長期的な取組みを進めている企業も多いが、これから方針を決める企業は、競争力維持に向けて、期間的側面も考慮し対応方針を決定する必要がある。

事業継続リスクを抱えている場合、多くは新規構築やリビルド、リライトによる全面刷新が必須となる。しかし、それ以外の場合は、既に短くなってしまった対応期限も見据え、一部機能のリホスト、ラッピング、アウトソーシングなども検討すべき時期にきている。

② デジタルプラットフォームの構築

レガシーシステムからの脱却と共に考えなければならないのが、デジタルプラットフォームである。

デジタルプラットフォーム(HUB)

最新のデジタルテクノロジーは常に変化を続けている。AIや量子コンピュータに代表される情報分析処理の高度化、デバイス種類の多様化や高度化、IoTや外部機関の情報高度化に伴う情報量の増加、サービス提供型のシステム導入が増加している中で、現在構築している技術が数年後には時代遅れの技術となる可能性が非常に高くなってきている。

このような状況において、デジタルを利用した最適かつ具体的な絵姿を描く事は非常に困難である。その為、テクノロジーの変化に機動的に対応できる柔軟な仕組みを作っておくことが最低限であり非常に重要となる。

弊社では技術変化への柔軟な対応に備えるべく、技術入替えを可能とする各種プラットフォーム(AI Hub/Blockchain Hub/ ACTSなど)を提供している(図表1)。2025年の崖に向けた備えの1つとして、ご検討頂ければ幸いである。

デジタルプラットフォーム(クラウド化)

デジタルプラットフォームの実現手段として、クラウドサービス利用は避けては通れない。金融業界においてもクラウドサービスの利用は加速度的に浸透しており、もはやクラウド利用が所与のものとなりつつある。

多様な目的でのクラウド利用が進む中、目的毎に最適な異なるクラウドサービスを利用する「マルチクラウド化」も当たり前になりつつあるが、ここで注意したいのが、「マルチクラウド化」によるシステムの複雑化である。ID管理、コスト管理、セキュリティ管理、ネットワーク接続方法等がクラウドサービス毎に異なることから複雑化し、便利なはずのクラウドソリューションが新たな足かせとなるリスクがある。

黎明期、成長期の今年だからこそ、将来的なシステムの複雑化や不十分なセキュリティ対策に苦悩しない為に、ネットワーク統合、運用の統合、利用者の場所に依存しないゼロトラスト型セキュリティを実現するマルチクラウド基盤など、中長期的なクラウド活用戦略の検討を行う必要がある。

③ 人材/組織/プロセスの構築

デジタルトランスフォーメーションを実現、運用していく上で最も重要なのは人、組織、プロセスの改革である。

デジタルの活用には各企業の業務特性を理解しITの使い方を考えられるデジタル人材が必要となる。技術者の調達と違い、これらの人材は短期的に外部から調達する事が非常に難しい。各企業のデジタル投資額から考えると数年後には数十から数百人単位のデジタル人材が必要となる中で、年間どのくらいのデジタル人材を調達、育成する事が出来るだろうか。

5年後に必要となるデジタル人材のスキルと規模を想定し、その確保に向け、今年から人材の採用、育成、調達を行うと共に、組織改革(縦統合)や評価プロセスの見直しに着手する事をお薦めしたい。

デジタルトランスフォーメーションアプローチ

最後にデジタルトランスフォーメーションに関して弊社が提唱する3つアプローチをご紹介したい(図表2)。

デジタル・ディカップリング型:

既存システムを活かしながら新システムを構築し、互いに連携することでトランスフォーメーションを実現するアプローチ

デジタル・ビークル活用型:

新システム(時として新会社)を構築・設立し、既存のサービスとは分離して新サービスを提供。徐々に移行していくアプローチ

トランスフォーメション・ジャーニー型:

業務やシステム機能単位で段階的に新規システムへ移行する事でトランスフォーメーションを実現するアプローチ

以上3つのアプローチをご紹介したが、どの方法を採用すべきかは、目指すべき姿や既存システム、体制によって変わってくる。現状分析、目指すべき姿の具体化をした上で、どのアプローチを採用すべきか決定する必要がある。

おわりに

2020年は、各企業がデジタルトランスフォーメーションの実現に向けて、施策を具体化し、本格的な実施を開始していくものと思われる。

実現にはシステム部門だけではなく、ビジネス部門を含む、経営全体としての積極的な参加が必要となる。

弊社は今年も経営課題から個々のテクノロジー導入に至るまで、お客様のデジタルトランスフォーメーションを全面、全力でサポートする真のトランスフォーメーションパートナーでありたい。

※FSアーキテクトは、金融業界のトレンド、最新のIT情報、コンサルティングおよび貴重なユーザー事例を紹介するアクセンチュア日本発のビジネス季刊誌です。過去のFSアーキテクトはこちらをご覧ください