このシリーズの記事一覧:
- 真の「生産性向上」と業務プロセス再構築、そして人の重要性海外先進事例に学ぶデジタル変革実現の鍵とは? ~ウェビナー
- RPAの要諦と次なるデジタル変革への挑戦 ~ウェビナー
- 「アンバンドル」から「社会構造変革」へ:日本におけるフィンテックの将来的可能性 ~ウェビナー
- 来たる“創造的破壊”の波に向けた、保険ビジネスのあり方とは ~ウェビナー
- デジタルウェルスマネジメントがもたらすアドバイスモデルの転換 _真の顧客本位の実現に向けて ~ウェビナー
- コーポレート領域でのデジタル技術導入による変革効果の限界と打開策–RegTechを中心とした効果創出の仕組みづくり ~ウェビナー
- HUMAN + MACHINE:ビジネス変革における第3の波に日本企業はどう立ち向かうべきか ~ウェビナー
- ブロックチェーンは金融ビジネスをどう変えるか、何が可能になるのか~ウェビナー
- デジタル変革のあるべき姿 – 伊予銀行様DHDバンクを例に ~ウェビナー
- デジタル変革の鍵を握るCloud活用をどう進めるべきか – 金融業界における成功の要因 ~ウェビナー
- 真の顧客起点型ビジネスモデルの追求 –2つの主導権争いと鍵となるテクノロジーの展望~ウェビナー
- デジタルトランスフォーメーション(DX)における人材活用・リスキルの進め方とは~ウェビナー
- 顧客を知り、顧客に応え、顧客と共に育てるビジネス ー 2019年消費者動向調査を踏まえて ~ウェビナー
- Beyond RPA -RPAは期待した効果を出せたのか?これまでの総括と求められる次なる一手:第1回 RPAの特性と活用推進の鍵 ~ウェビナー
- BEYOND RPA -RPAは期待した効果を出せたのか?これまでの総括と求められる次なる一手:第2回 求められる次の一手と2つの方向性
- 第1回 グローバルのイノベーションにみる保険の新たな姿 _今だからできるサービスと日本への示唆~ウェビナー
- 第2回 グローバルのイノベーションにみる保険の新たな姿 _今だからできるサービスと日本への示唆~ウェビナー
- Bank4.0時代に向けた銀行変革 - “破”銀行、“創”銀行:第1回 Bank4.0時代の到来と国内金融機関への影響~ウェビナー
- Bank4.0時代に向けた銀行変革 - “破”銀行、“創”銀行:第2回 Bank4.0時代の“銀行”と実現に向けた鍵~ウェビナー
- 顧客価値と企業経営_Design Pivot 新しいデザインとの向き合い方 第1回 金融機関に求められる新たなビジネスデザイン~ウェビナー
- 顧客価値と企業経営_Design Pivot 新しいデザインとの向き合い方 第2回 新たなデザインとの向き合い方
- デジタルビジネスを加速させる次なるステージの組織運営と人材活用 _デジタルトランスフォーメーション(DX)のその先へ:第1回ディスラプションの進行と金融業界の現状~ウェビナー
- デジタルビジネスを加速させる次なるステージの組織運営と人材活用 _デジタルトランスフォーメーション(DX)のその先へ:第2回 変革へのロードマップ(1)オペレーティングモデル・シフト~ウェビナー
- デジタルビジネスを加速させる次なるステージの組織運営と人材活用 _デジタルトランスフォーメーション(DX)のその先へ:第3回 変革のロードマップ(2)リソース・シフトとワーク・シフト
- 守るテストと攻めるテスト:第1回 創造的破壊(disruption)の進行と金融業界の現状
- 守るテストと攻めるテスト:第2回 創造的破壊(disruption)の進行と金融業界の現状~“攻めるテスト”の要諦
- BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のその先へ _これまでとデジタル化時代における 今後のあるべき姿 :第1回 新たな市場環境とアウトソーシングのかたち
- BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)のその先へ - これまでとデジタル化時代における 今後のあるべき姿 第2回 ― BPSのメリットと活用事例
- COVID-19による金融業界へのインパクトと先進事例に学ぶ「ニューノーマル」へのシフト:第1回 COVID-19のインパクトと『ニューノーマル』のかたち
- COVID-19による金融業界へのインパクトと先進事例に学ぶ「ニューノーマル」へのシフト:第2回 先進事例に学ぶ「ニューノーマル」へのシフト 銀行業界
- COVID-19による金融業界へのインパクトと先進事例に学ぶ「ニューノーマル」へのシフト 第3回 先進事例に学ぶ「ニューノーマル」へのシフト〜証券・保険業界
- 異業種連携による新たなビジネスチャンス獲得のための要諦とは:第1回 異業種連携の最新動向と金融サービスのポテンシャル
- 異業種連携による新たなビジネスチャンス獲得のための要諦とは:第2回 異業種による金融参入事例〜MarCoPayの実現に向けた日本郵船の取り組み
- 異業種連携による新たなビジネスチャンス獲得のための要諦とは:第3回 異業種による金融参入・連携における成功実現の要諦
- 保険イノベーションの最新動向 〜EFMA受賞イノベーションから見た次なる一歩とは:第1回 EFMAアワード受賞企業と保険イノベーションのトレンド
- 保険イノベーションの最新動向 〜EFMA受賞イノベーションから見た次なる一歩とは:第2回 保険会社が取るべき次なる一歩
- 筋肉質な経営体質に転換するための、聖域なきコスト削減 – リバウンドしない仕組みづくりとカルチャー変革
- 欧州デジタルバンキング、何が成否を分けたのか。そこから学ぶ日本への示唆とは:第1回
- 欧州デジタルバンキング、何が成否を分けたのか。そこから学ぶ日本への示唆とは:第2回
- 顧客体験を軸にしたビジネス変革 ~他業界に学ぶ顧客体験の追求と成長へのチャレンジ~
- 2021年の金融業界の展望 – 「ニューノーマル」を実現するために金融機関には何が求められるのか
- 「2025年の崖」を乗り越えるモダナイゼーションの現実的な施策とは その4 ~アクセンチュアの謎、なぜレガシーモダナイゼーションで選ばれるのか?
- データドリブン保険経営の要諦〜大同生命におけるビジネス・アナリティクス・クリエイティブ三位一体改革〜
- Capital Markets 2025 – 証券ビジネスの再創造に向けて
- Technology Vision 2021から読み解く日本の金融機関への示唆
- 日本初のデジタルバンク「みんなの銀行」は何を目指しているのか - 横田頭取・永吉副頭取をお迎えして
- 保険イノベーションの最新潮流~ Efma受賞イノベーションから見た最新事例と保険DXの将来像~
- 「パーパス起点」で金融機関はどう変わるのか ~ “Business of Experience(BX)”実現に向けた具体的な変革ポイント
- アウトソーシングの新潮流と人材戦略について
- 「事故のない世界」を目指して。イーデザイン損保の新たな自動車保険「&e アンディー」からパーパス起点の変革の意義を紐解く
- 2022年、金融機関の持続的成長には何が必要なのか。銀行・証券・保険の各業界のトレンドと展望を総括
- 銀行業界を牽引するグローバル大手銀行の戦略から、日本の金融機関への示唆を読み解く
- 岐路に立つ金融機関系システムは、10年後を見据えてどのように変わるべきなのか
- 金融機関のグローバル展開パターンを分析し、成功の要諦とシナジーの生み方を読み解く
- COVID19とは何だったのか。これまでの総括とこれからの予測、そして日本の金融機関への示唆
- メタバースは現実世界やビジネスをどう変えるのか。テクノロジー・ビジョン2022に寄せて
- 顧客ニーズの変化や手数料率の低下。証券リテール業界はどのように変わるべきなのか
- 保険イノベーションのグローバルトレンドと、今後起こりうる大きな変化。Qorus(旧Efma)受賞イノベーションから最新事例のご紹介
- 多様化するリスクに対し、日本の金融機関が取るべきデータドリブンなリスクマネジメントとは
- 顧客を「生活者」として捉え直す。真の顧客志向による顧客体験の最適化とマーケティングの変革
- 2023年の金融業界を占う。不確実な世界で持続的な成長と新たな価値創造を実現するための注力テーマ
- AI活用は意思決定の領域にまで拡大。金融業界におけるAI活用と「責任あるAI」の実現に向けて
- 金融機関におけるTalent Transformation(TX)の進め方
- イノベーションの潮流に変化の兆し。新興国のイノベーション事例から日本の金融機関は何を学べるのか?
- 社会実装が始まる量子コンピュータ。金融業界こそ量子コンピューティングを活用すべき理由とは
- ジェネレーティブAIが金融業界にもたらす巨大なインパクト。「AI社員」の活用事例も紹介
- コア領域こそ内製化を。DX全盛の今こそ金融業界のIT現場を取り巻く状況を知る
- アトム(現実)とビット(仮想)の融合が始まった。テクノロジービジョン2023から世界の向かう先を知る
- Qorus Innovation in Insurance Awards 2023の受賞イノベーションを解説。保険イノベーションの今後を占う
- “価値”そのものに着目した新たな変化の波。Web3の進化が金融業界にもたらす可能性について
- 【新年特別企画】銀行、証券、保険の各業界で生成AIの活用が本格化へ。2024年の金融業界を占う
- 生成AIが可能にする一人ひとりの顧客との対話。金融業界の多くの課題を解決しうる超高速マーケティングとは
- 保険契約管理業務をゼロベースで再構築。アフラック生命保険株式会社が全社横断で取組む「アフラック プロジェクトZERO」とは
- クラウド型統合融資プラットフォームnCinoが世界中で受け入れられている理由とは。融資事業のデジタル変革の道筋を考える
- Qorus Innovation in Insurance Awards 2024レポート。保険イノベーションの現在地と今後の展望を考察
第3回 金融ウェビナー
フィンテック・スタートアップ企業は、グローバル金融の様々な分野で影響力を拡大しつつありますが、日本はこれまでのところ、成長・投資額の両面で世界主要市場に遅れを取っています。しかし今後、その役割が社会構造変革の牽引役へとシフトする中で、日本は革新的金融テクノロジーの一大発信地となる可能性があります。
日本におけるフィンテック・セクターの現状
スタートアップ企業のデータベース・サービスを提供するCB Insightsのデータを見ると、日本は米国・中国・英国・香港といった国々・地域に大きく遅れを取っています。こうした市場ではセクターの成熟化とともに成長率が低下していますが、フィンテックに対する投資は拡大しており、過去3年でGDPの0.05〜0.1%という規模に達しました。
一方、メキシコ・インドネシア・ブラジルといった新興国、またヨーロッパの中でもフィンテックの台頭が比較的遅かったスペイン・フランスといった国々では、より小規模の投資が数多くの新興ベンチャー企業に行き渡っています。そして残念ながら、日本はどちらの面で見ても他の主要国の後塵を拝しているのが実情です。フィンテック・セクターに対する投資規模は低迷しており、案件数の伸びもグローバルな平均値から程遠い水準にあります。
フィンテック・セクターの発展段階と日本
日本のフィンテック・セクターがここまで大きな遅れを取っている理由はどこにあるのでしょうか?その背景の1つは、フィンテック・セクターが過去に辿ってきた、そして今後辿ることが予測される発展の過程です。
発展の過程は「アンバンドル」・「エコシステム」・「社会構造変革」という3つのフェーズに分けることができます。2010〜12年ごろに見られた第1フェーズでは、既存金融機関の提供する全方位型サービスを「アンバンドル」(分解)し、部分的に提供するという競合型のビジネスモデルが多く見られました。その典型的な例として挙げられるのは、ケニアのエムペサ(M-Pesa)など、アンバンクト(unbanked)、つまり銀行口座を持っていない、または持てない人々へモバイル技術を使ってサービスを提供するケースです。中小企業向け融資を提供する米国のキャベッジ(Kabbage)など、アンダーバンクト(underbanked)つまり十分な金融サービスを享受できない層へのサービス提供を行うフィンテックもこのフェーズで多く見られました。
第2フェーズとなる2013〜15年には、連携やオープンイノベーションを重視する「共生型スタートアップ」が台頭します。「アンバンドル」をつうじた競合よりも、他のスタートアップや既存金融機関とのコラボレーションをベースとし、サービス・商品も(プロダクト・アウトではなく)顧客ニーズを重視したアプローチです。ブロックチェーンをはじめとする革新的なテクノロジーも、エコシステムをベースとするこうしたフィンテック・スタートアップの成長を後押ししました。
2016年以降に始まった第3フェーズでは、第2フェーズのトレンドがさらに加速し、官民連携やエコシステム形成をつうじて社会的課題への対応を試みるフィンテック・スタートアップが出現します。保険者や医療機関との連携により医療費削減に取り組む、米国の医療保険スタートアップBright Health。生鮮農産品の農家へ超低金利ローンを提供し、出荷と資金化のタイムラグ短縮化を実現するProducePayなど、現在この分野では数多くのフィンテック企業が見られます。
日本はこうした流れの中で、現在どのような位置にいるのでしょうか?日本の大きな特徴は、金融サービス・インフラが比較的早い段階から整備されていたことです。その結果、金融イノベーションを後押しするアンバンクト・アンダーバンクト層がほとんど見られず、第1フェーズで顕著だった金融サービスの「アンバンドル化」に対する需要は大きくありませんでした。日本でフィンテック・セクターが低迷する現状には、こうした背景が深く関係しているのです。
成長のポテンシャル
しかし、こうした流れが今後も日本で続くとは限りません。第2フェーズから第3フェーズにかけて加速した金融イノベーションが、国内のフィンテック・スタートアップに全く新たな可能性をもたらすためです。
例えば、日本は世界に先駆けて人口の減少・高齢化といった社会的課題に直面しています。こうした立ち位置を活用し、社会保障費の抑制や生産性向上、個人資産の流動化といった分野でイノベーションを進めれば、大きな機会を創出できるはずです。
日本のポテンシャルを示す要因は他にもあります。アクセンチュアが最近実施したグローバル調査では、エコシステム構築に積極的な日本人回答者の割合が世界全体の平均を上回りました。「系列」などの仕組みを活用し、相互信頼関係を重視した企業同士の長期的関係を築いてきたこれまでの経験もプラスとなるでしょう。
地理的な要因も注目に値します。日本は依然として世界第3位の経済規模を誇っているだけでなく、人口や経済資源が比較的狭い国土に集中しています。とりわけ東京には、ニューヨークやロンドンと比較しても、イノベーションの醸成に重要な役割を果たす条件が多く整っています。
イノベーションの加速に向けて
こうした様々な要因を考えても、日本のフィンテック・セクターが長期的に大きなポテンシャルを持っていることは明らかです。ただし、「エコシステム」フェーズから「社会構造変革」フェーズへの移行を推進し、その潜在力を余すところなく発揮するためには、数々の課題を克服する必要があるでしょう。業界横断型のエコシステム形成や市場再編、企業間連携をさらに加速させるための規制緩和はその一例です。
また政府には、スタートアップ企業や革新的ビジネスの支援強化、企業の新陳代謝・人材流動性の加速といった取り組みが求められます。サンドボックスなどの活用をつうじたイノベーション推進策も重要となるでしょう。
一方、銀行をはじめとする既存の金融機関にとっては、既存事業の効率向上やコアITのデカップリング、試行型ビジネスの展開などにより、急速に進化するフィンテック・セクターのビジネス機会を取り込む環境づくりが緊要の課題です。破壊的変革が金融の世界でさらに大きな影響を及ぼす今後、フィンテック・スタートアップとの連携を図り、金融イノベーションの推進役としてのポテンシャルを活用することがさらに重要となるのは間違いありません。