多くの金融機関は低金利状態が長期化する中、少子高齢化の進展も相俟って経営環境の厳しさが一段と増しており、ビジネスモデルの変革を迫られている。
おりしも近年の金融テクノロジーの発展やフィンテック企業の台頭によって、金融機能の分解(アンバンドル化)と再構築(リバンドル化)の動きが進行している。今や金融業への参入のハードルは格段と低くなった。もはや銀行業務は銀行が独占的に提供するものではなく、フィンテック・ベンチャー企業、IT企業、Eコマース業者による金融業務への進出の例は、国内外において枚挙に暇がない。銀行を始めとした伝統的な金融機関の手強いライバルは、いずれは異業種になるかもしれない。同時に、テクノロジーの発展はAPI連携などを通じて金融業と非金融業の融合を促す側面があることも見逃せない。これからの金融機関と異業種との関係は「競合」と「協創」が同時並行的に進むと思われる。
イノベーションの急速な進展は銀行を消滅させる破壊力を持つのか、それとも銀行に従来の殻を破って進化を遂げるための強力な武器を与えるものなのか、その答えはまだ出ていないようだ。一つ言えるとすれば、テクノロジーやイノベーションを味方につけた陣営(チーム)の勝ち残る可能性が高いということではないか。
こうした大きな変化の中で、地方金融機関がどのように活路を見出すかについては、次のようなヒントらしきものが思い浮かぶ。
まず、地域でのエコシステムの構築が挙げられる。地域金融機関は長年培ってきた地元での信用力や地域の産業界等との緊密な関係を梃子にして地域経済圏を活性化させる原動力となる役割を果たせるのではないか。金融機関にはビッグデータ解析を駆使して顧客情報の集積・分析を通じた高度の情報産業への脱皮を遂げる途も開けてくる。また、RPA、AIなど新たな技術を利用すれば業務の抜本的な効率化を図ることも可能となる。ただ、人手に頼っていた作業をそのままRPAに載せるだけでは効果は限定的なものに止まる。コスト削減や事務手続きのダイレクト化を足場に、テクノロジーをビジネス領域の拡大や収益力の増強に繋がるような大きなビジネス構想実現の切り札に用いれば、その効果も飛躍的に拡大できる。金融機関はそのためのテクノロジー導入を全て独力で行う必要はなく、信頼できるパートナー企業など外部の力をうまく借りれば良い。
金融ビジネスの将来ビジョンを切り拓いていくために金融機関に今最も求められることは、イノベーションを取り込んだ新しい試みにトライ・アンド・エラーの精神をもって果敢に挑戦し、自らの強みを活かした新たなビジネスモデルを追及する強固な意志と行動力であろう。
金融当局にはこのような民間サイドの積極的な取り組みを後押しするイノベーション・フレンドリーな指導や監督に重点を置いた舵取りをお願いしたい。
出典:月刊銀行実務, 2018年8月1日発行