金融サービスブログ    

本ブログシリーズの第1回では、日本の金融機関が直面する課題について分析しました。今回は、欧米で台頭するチャレンジャーバンクの動向とそのビジネスモデルがもたらす示唆、そして日本における可能性についてお話しします。

日本の金融機関は欧米諸国の銀行と同様、チャレンジャーバンクの脅威に直面するのでしょうか?端的に言えば、近い将来に日本で同様の流れが生じる可能性は低いと思います。しかし、前回お伝えしたような理由から、早急に変革へ取り組み、危機的状況を打開する必要があることは変わりません。革新的サービスを提供する海外金融機関のビジネスモデルをヒントとして活用し、競争力強化に向けた改革の道筋を明らかにすることが今求められているのです。

新興勢力の台頭という意味で、トレンドの最先端を行く国が英国です。同国では過去10年間、新規参入銀行が金融機関のほぼ3分の2を占めるまでに成長しました。昨年アクセンチュアが発表した2018年版の『Global Banking Report』によると、チャレンジャーバンクが業界全体の収益に占める割合は約14%[1]。銀行業の免許を持つフィンテックも現在では15社に増加し、その最大手は100万人以上の顧客を抱えています[2]。英国には若干見劣りするものの、他のヨーロッパ諸国でも新興勢力の存在感は日増しに高まっています。

2016年に英国初のアプリ専業銀行として誕生したAtom Bankは、こうした流れを体現する金融機関の1つです。同行は普通預金・住宅ローン・ビジネスローンなどの商品や24時間体制のカスタマーサポートを、全てモバイルアプリ上で提供。わずか10分程度で口座が開設できるだけでなく、5年の定期預金で年率2.28%という高い金利を設定しています。2018年4月には、総融資高が9900万ポンド(約138億円)から12億ポンド(約1670億円)へ拡大し、預金高も14億ポンド(約1950億円)に達しました[3]。モバイル専業という特徴を活かし、取引認証も顔認識や音声認識など、既存のスマートフォンに搭載された機能を上手に活用しています(指紋認証の導入も現在検討中)。

日本版チャレンジャーバンクの可能性?

では今後、チャレンジャーバンクは日本にも台頭するのでしょうか?多くの欧米諸国と異なり、日本では少数のメガバンクが市場で大きな影響力を持っています。また欧米では、高額の口座維持手数料・預金貸越手数料に対する消費者の不満が新興勢力台頭の大きな背景となりましたが、日本では手数料が非常に低く抑えられています。こうした市場環境の違いを考えれば、同じような流れが生じる可能性はむしろ低いでしょう。

ただし、日本版チャレンジャーバンク台頭の可能性がゼロというわけではありません。他業種を含む様々な企業との連携を可能にするバンキングシステム。そして革新的融資モデルや連携をつうじた高い金利の実現など、最新の市場・テクノロジートレンドを活用した(真の意味で)顧客本位なビジネスモデル。この2つを兼ね備えた金融機関が現れれば、日本の市場に大きなインパクトをもたらすかもしれません。

次世代バンキングシステムの鍵を握るエコシステム

日本でのポテンシャルに関わらず、欧米のチャレンジャーバンクが掲げるビジネスモデル、特にシームレスな顧客体験を実現するためのアプローチやシステムなどは大いに参考となるはずです。ではチャレンジャーバンクが日本の金融機関にもたらす最も重要な示唆とはどのようなものでしょうか?一言で言えば、それは「顧客本位のエコシステムで中心的な役割を果たす」ためのビジネスモデル転換です。顧客の体験・ニーズをアプローチの中核に据えてエコシステムを構築した中国のアリババやテンセントといった企業の例を考えれば、具体的なイメージが湧きやすいかもしれません。

もちろん両社が属するIT業界と金融業界では性格が異なるため、より金融サービスに適したアプローチを考える必要があります。金融機関にとって特に重要となるポイントは、レスポンシブかつ柔軟な顧客体験、そして様々な業種の多様な高付加価値ソリューションをリアルタイムで提供するエコシステムをパートナー企業との連携をつうじて実現することです。

日本の金融機関の多くには、ローンやクレジットカードといった商品・サービスの自社ブランド展開を重視する傾向が見られます。しかし今後はこの考え方を見直す必要があるかもしれません。パートナー企業との連携を図り、柔軟かつ顧客ニーズにあった商品・サービスをエコシステム全体として開発するというアプローチがより重要になるでしょう。

そして、こうしたアプローチを実現するために不可欠となるのが、既存ITインフラの抜本的見直しです。例えば、顧客本位のエコシステムを構築するためには、ノンバンクを含めた様々な外部システムと自社システムの連携が求められます。また、リアルタイムの情報フローを実現し、エコシステムの活用を通じたコラボレーション重視のアプローチへ適応させるためには、システムの大胆な改革が欠かせません。今、究極的に日本の金融機関へ求められているのは、ビジネスの中核を担うコアバンキングシステムをデジタル化・顧客本位という時代の要請に合わせてリデザインすることなのです。

最終回となる第3回のブログでは、コアバンキングシステムの変革に向けたコンセプトと実現に向けた具体的なステップについて解説します。

[1] Beyond North Star Gazing: How our four winning bank models map to actual market evolution, Accenture (2018). 詳細についてはリンク先を参照(英語): https://www.accenture.com/_acnmedia/PDF-85/Accenture-Banking-Beyond-North-Star-Gazing.pdf
[2] 同上
[3] Atom Bank’s pricing promotions drive up losses, Financial Times (July 31, 2018).
詳細についてはリンク先を参照: https://www.ft.com/content/e14ade78-93f9-11e8-b67b-b8205561c3fe