近年、海外の金融機関は、コンプライアンス体制の大幅な見直しを図っています。国内金融機関も取り組みを進めていますが、必ずしも同じスピード感で変革を実現できていないのが実情です。特に重要な非公開情報(MNPI)や利益相反(Conflicts of Interest = COI)といった分野ではその傾向が目立ち、インサイダー取引やマネーローンダリングといった金融犯罪のリスクを高める要因となっています。ビジネスのボーダレス化がさらに加速しつつある今、グローバルなコンプライアンス基盤構築の重要性が急速に高まっているのです。

コンプライアンス分野で直面する課題の性質が、国内金融機関と欧米金融機関で大きく変わるわけではありません。しかし、日本と欧米では規制・コンプライアンス体制の厳格さに差があるのも事実です。海外市場でのプレゼンスが高まる今、日本の金融機関はグローバル・コンプライアンス体制の整備を進め、リスク軽減に向けた取り組みを加速させることを求められているのです。MNPIやCOIへの対応をグローバルなアプローチで進めれば、コンプライアンス業務負荷・コストの軽減も期待できるでしょう。

価値観の差がもたらすコントロール・ギャップ

日本の金融機関がビジネスの国際化を進める中、米国のSECやEUのEBA・ESMA、英国のFCAなど、世界各国・地域の当局による厳格な規制・監督の対象となる機会は今後さらに増加します。不適切なコンプライアンス管理によりインサイダー取引な利益相反が発生し、経営への大きなインパクトが生じる可能性が高まっているのです。

特に日本の金融機関が、この問題に今対応すべきだと考える理由は大きく分けて3つあります。その1つ目は、MNPIの定義にまつわる価値観の違いです。日本の規制当局がMNPIの内容を具体的かつ詳細にわたって定義する一方、ヨーロッパ・米国の規制当局は株価に影響を与える全ての情報と位置付けるなど抽象的なアプローチをとっています。関連情報を各国の支社単位で管理した場合、その重要性あるいはインサイダー情報となるリスクを的確に判断することは容易でありません。

2つ目の理由は、日本国内を見ても各金融機関でCOIの基準や対象が必ずしも一致していない点です。例えば、関連業者によるサービスの提供(例えば株式・債券引受けなど)を利益相反と見なすかどうかは、金融機関によって解釈が異なります。ブロック取引などの大口取引についても、同じような傾向が見られます。また、インサイダーリストや利益相反チェックの際に提出を求められる情報の種類(そして設定される提出期限)も、日本と英国・米国では大きな差があります。例えば、英国・米国当局または関連機関からは、外部のインサイダーの会社名・氏名・住所等も対象とした上で、早い場合は24時間以内の提出を求められるケースもあります。

3つ目の理由は、日本の金融機関が必ずしもグローバル全体で効率的なコンプライアンス情報管理を行えていない現状です。例えば、多くの欧米金融機関では新たな規制への対応を数ヶ月内という単位で実施する一方、日本の金融機関では同様のプロセスに1年以上が費やされることも珍しくありません。また、コンプライアンスチェックに時間を要しているために、クロスボーダー案件の監視などの面でもコントロールギャップが生じています。

こうした課題の大きな一因となっているのは言語の壁です。国内金融機関の多くはコンプライアンス関連情報の収集・管理を主に日本語で行っているため、全組織レベルでデータ共有プロセスの効率化を図り、東京の本社からガバナンス体制を一元的に管理することは決して容易でないのです。

グローバルコンプライアンス基盤の構築に向けて

日本の金融機関がこうした問題への対応を模索する中、テクノロジーの進化を背景としたビジネス・金融取引のボーダレス化は加速の一途をたどっており、MNPIの管理など異なる規制環境で生じるコンプライアンス上の課題にグローバルで対応を行う必要性は急速に高まっています。 

では日本の金融機関はどのようにグローバルコンプライアンスのプラットフォーム構築を進めるべきなのでしょうか?成功の鍵の1つとなるのは、コンプライアンス対応の優先順位に基づくグローバル基準と、拠点を置く各国向けのポリシーをバランスよく組み合わせることです。国際的な取引が急激に増加する現在でも、各拠点で施行される規制は様々であり、金融機関によってリスクプロファイルも大きく異なっています。最優先となるコンプライアンス課題も、それぞれの組織や拠点とするロケーションによって変わってきます。こうした環境の下では、ターゲットオペレーティングモデル、すなわち最小公倍数的にグローバルな仕組みを構築し、そこに各国・地域特有のマーケットプラクティスや規制に適した要件を補足するというアプローチが有効でしょう。

そのための重要なステップとなるのは、(世界共通で単一のポリシーを導入するのではなく)グローバルなコンプライアンス・フレームワークの一部として全ての市場に適用可能な要素、そして各市場の要件に対応するためにローカルで補完する必要のある要素をそれぞれ特定することです。また、正確かつ最新の情報に基づいて、各国・地域の規制動向や市場慣行の変化を継続的にモニタリングすることも非常に重要です。前述の通り、利益相反チェックの仕組み等をとっても、日本と英国・米国で求められる情報・スピード感は異なります。また規制に明記されているものではないので、規制当局・他社の動向などに留意しながら常に体制を進化させる必要があるのです。 

こうしたアプローチを活用したコンプライアンス変革の取り組みはすでに行われています。例えば、ある海外の大手金融機関は、コンプライアンス・データ管理の一元化と自動化を進め、情報処理プロセスの分散化と非効率性の解消に取り組みました。アクセンチュアが提案したのは、取引やEメール、音声監視、およびその他のコンプライアンス機能との統合(行動パターンに基づく監視向けのAML等)を通じて、360ビューを提供する集中コントロールルーム・プラットフォームの導入です。 

こうしたテクニカルなソリューションは、効率性の向上やリスク軽減など大きな効果を期待できますが、それによって全ての問題が解消されるわけではありません。全組織レベルで標準化され、ローカル市場特有の要件にも対応可能なリスクアプローチの重要性は、今後日本の金融機関が海外市場でのプレゼンスを高めるにつれてさらに増加するでしょう。グローバルな規模で将来を見据え、コンプライアンスのあるべき姿を模索することが今求められているのです。