各企業でポストコロナの世界を生き抜くための変革を余儀なくされている。本邦証券業界もその例外ではない。しかし、ポストコロナの大前提となるリモートでの「働き方」や「顧客サービス提供」を支えるインフラ整備は一朝一夕で実現できるわけではない。
一方で、一連のコロナ騒動に対する証券会社の対応の中でも、“勝ち組”企業が存在する。危機管理を徹底し、いち早く在宅勤務体制に移行した上で、ポストコロナの世界に向けた準備を着々と進めている企業である。

本稿では、本邦証券会社のリモートワークに向けた取り組み状況から、“勝ち組”企業になれず、次へのアクションに苦戦している企業の課題を浮き彫  りにした上で、ポストコロナを見据えた真のデジタルワークプレイス改革を実現するための要諦をご紹介したい。

COVID-19を受けたリモートワーク環境の実現レベル

多くの企業のIT部門では、2020年7月に開催予定であった一大イベント、東京五輪に向けて、リモートワークの準備に追われていたことであろう。しかし不運にも、東京五輪の延期が確定したにもかかわらず、企業のリモートワークに向けたインフラ整備は、当初想定していた計画を大きく変え、前倒しでの対応を余儀なくされた。

地球規模での未曽有の危機“新型コロナウィルス(COVID-19)”に陥ったためである。

世界中が新型コロナウィルス騒動に見舞われ、実体経済にも大きな影響を与えた。「ロックダウン等による需要減少」、「グローバルサプライチェーンの弱体化による供給縮小」、「マーケット急落による財政悪化」等、様々な問題を抱えつつ、各企業は顧客へのサービス提供を継続する必要があった。加えて、政府の緊急事態宣言による出社制限が相まって、オフィスに出社せずに現状のサービスレベルを維持することが求められた。つまり、リモートワークの実現が各企業にとって、一大ミッションとなったことは間違いないだろう。

弊社の調査によると、コロナ対応を受けて、IT部門が提供するリモートワーク環境は、3つの段階がある。

Level1:

既存業務に対して、一定サービスレベルは下がるものの、最低限の業務ができるような環境を提供

Level2:

在宅でもコロナ発生以前と同じサービスレベルでの業務継続が可能な環境を提供

Level3:

抜本的な働き方改革を見据え、今回整備した環境をコロナ終息後も活用する前提で環境整備

上述した3つのリモートワークのLevelに対して、各社の目標設定や取り組むスピード感に違いがみられる。

本対邦応証の券実各態社におけるCOVID-19

ここで、本邦証券会社に目を向けると、リモートワークの取り組みは各社様々であるものの、大きく3つのグループに大別されることがわかった(図表1)。

Tier1企業

コロナ騒動以前からリモートワーク環境が全社的に準備されており、1月から在宅勤務体制への取り組みを開始している企業。緊急事態宣言発令時には既にリモートワーク環境はLevel2まで到達。継続してLevel3に向けて対応を加速させている。

Tier2企業

2月下旬より、一部に導入していた既存リモートワーク環境の拡張に取り組み始め、緊急事態宣言までにLevel1相当のリモートワーク環境を構築。コロナ長期化を視 野にLevel2以降の検討を行うも苦戦。

Tier3企業

コロナ騒動以前からリモートワーク環境が整備されておらず、緊急事態宣言発令後に全社的な取り組みとして動き始めた企業。

金融機関は他の業界に比べて、リモートワークが進んでいない。それは、緊急事態宣言後も政府から金融サービスは社会インフラとして業務継続するような基本方針が出されていることもあるが、本邦証券業界の中の企業別にみて、なぜこのような違いが出るのであろうか。

明暗を分けた「危機管理」と「初動の早さ」

Tier1の企業の中でも、2011年に起きた東日本大震災を受け、日ごろからBCP対策に取り組み、準備をしてきた企業がある。だからこそ、1月中旬には、在宅勤務体制に移行し始める、という迅速な意思決定ができたのであろう。このような事前の危機管理対策を怠ってきた企業は、コロナ発生後の危機認識が低く、初動が遅れる傾向にある。

セキュリティ対策におけるジレンマ

最低限の業務継続ができる環境(Level1) までこぎつけた企業も、ポストコロナを 見据えた更なる環境整備に苦戦を強いら れている。足元の業務継続ではなく、長 期的な視点での話となると、どうしても セキュリティやコンプライアンスの観点 が重要視される。しかし、セキュリティ の障壁が低く、実現容易な構成を採用す ると、ユーザビリティを失い、ビジネス 部門の反感を買うこととなる。

例えば、リモートで社内のPC環境に接続するソリューションは、大別すると4 つの方法が存在する(図表2)。

暫定的な対応として、「③オンプレVDI 接続」や、「④オフィス自席PC遠隔」のパターンを採用している企業も多いかと思うが、リモートワーク環境をLevel2 まで到達させるためには、実際にオフィスで作業しているレベルでのインフラを提供する必要がある。つまり、クライアントPC側で独立して作業を可能とする「①直接接続」のパターンを検討する必要がある。

しかし、PCから、直接社内LANに接続するため、ネットワークセキュリティの検討に加え、運用・監視におけるセキュリティ統制も必要であり、IT部門の負荷が増すことは公然たる事実である。IT部門のこうしたジレンマが、Level2以降の変革に対する減速要素となる。

弊社では、セキュリティ、特に昨今話題 となっているSASE(Secure Access Service Edge)の考え方を取り入れ、セキュアに「①直接接続」パターンを実現するソリューションを保持している(図表3)。弊社は当該ソリューションの導入だけで なく、ネットワークの監視・運用、イン シデント対応も請け負うため、上述のIT 部門のジレンマを解決し、企業のリモー トワーク環境をクイックにLevel2到達まで近づけることが可能である。

業務・働き方に即した真のデジタルワークプレイス改革

今回の騒動におけるIT部門の暫定的な対応は、一般的なオフィス業務を想定したリモートワーク環境を整備する、といった大半の社員を救うことを目的とした全体最適な対応となっている。しかし、業務によっては、IT部門が提供したリモートワーク環境では救うことができず、出社を余儀なくされた部門もある。特に証券業務では、専用端末を使って分離された環境下で作業する必要があるバック部門や、ハイスペックPCを必要とし、会社貸与PCまたは個人端末では不十分なトレーディング部門、法人関係情報等、センスティブなデータを扱うホールセール部門が存在する。IT部門はこうした業務特性に応じてリモートワーク環境を準備することが必要である。

また、上述の現行業務を単にリモート化するだけでは不十分である。ポストコロナを見据え、各証券業務がどのような変革を遂げるのか、証券業務の“ new normal”を見据えた環境構築が肝要であり、当然のことながら、真のデジタルワークプレイスは、ビジネス部門と二人三脚で考えるべきアジェンダである。

弊社では証券業界におけるポストコロナに向けた“new normal”なビジネスについて、各業務ファンクション別に検討すべきアジェンダを整理している(図表4)。日々お客様のビジネス部門とディスカッションさせていただきつつ、IT部門として準備すべきインフラ環境の構想を行っている。

おわりに

多くの企業では、緊急事態宣言による出社制限下での業務継続を実現するために、リモートワーク環境を突貫で構築・拡張したことであろう。しかし、今回の騒動を一時的に乗り越えるための付け焼刃の対応で満足せず、ポストコロナ時代における業務の在り方を見据えながら、ワークプレイス改革を一気呵成に推し進めるチャンスと捉えるべきである。

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