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近年、労働人口減少、若手社員の価値観の多様化、人的資本開示など企業経営に関わる人材課題に対応する中で、多くの金融機関がジョブ型雇用やスキル重視の人材マネジメントに取り組んでいる。従来と異なる多様な社員を管理・活かすためには、社員一人一人にパーソナライズされた人材マネジメントが求められるが、多くの企業において変革の難易度は高い。

このような背景から、社員情報を一元管理し社員一人一人のキャリア成長の実現を支援する基盤として「タレントマネジメントシステム」への注目が高まっている。

本稿では、金融機関各社で導入が進むタレントマネジメントシステムを効果的に活用するための3つの視点と5つの施策を概説する。

「タレントマネジメント」の目的は、社員一人一人が持つスキルや経験、キャリア成長や働き方の志向性と会社が事業戦略の実現のために社員に求める能力や貢献のあり方とをすり合わせ、採用・育成・配置・処遇といった人事施策の運用を通して会社と社員の双方の目指す姿を実現することにある。その実現のためのシステム基盤として注目されているのが、タレントマネジメントシステムである。

会社の視点

多くの金融機関において、フィンテックの更なる浸透、COVID-19などを契機としてデジタル人材の育成に取り組まれている。座学や実技研修を取り入れたトレーニングや実際のDXプロジェクトへのアサインを通したOJTを組み合わせた育成プログラムの整備が進められている。一方で、仕事の再定義は十分に進んでいないのではないだろうか。学んだスキル・知識を業務として実践に活かす場がなければ能力発揮につながらない。それだけではなく、優秀なスキルをもった社員が社外に流出してしまうリスクも高まる。

そこで人材ポートフォリオの策定が必要となる(図表1-①)

仕事と人材の再定義

人材ポートフォリオとは、経営計画の遂行に必要となる職種(人材タイプ)と要員数を可視化する手法である。これにより、現状とのギャップを明確化することができるため、社員はどのようなスキル・知識、経験を有しているべきか、それらの社員をいつまでに何名、どの事業に配置すべきか、社内に適任はいるか、適任がいない場合に内部育成で間に合うか、社外から迎え入れるキャリア採用は何名必要か、といった検討が具体化する。

一方で、事業環境の変化により計画通りに仕事が発生しないことはある。その逆も然り。人材ポートフォリオは一度作成して終わりではなく、事業と社員の成長状況に応じて常に見直し、更新していくものである。再定義した仕事と人材の充足状況を把握するために、どのようなデータがあればよいか、という観点でタレントマネジメントシステムに蓄積すべき社員データやダッシュボードの要件を明確にしておくことが大切だ。

タレントマネジメントシステムの導入や利用率改善に取り組まれる際に、人材ポートフォリオやそれに代わる仕事と人材の再定義が十分か、点検してみてはいかがだろうか。

社員の視点

事業戦略の実現に必要となる人材の獲得・育成・配置を実行していくためには、社員の目線で施策の有効性を点検する必要がある。社員が仕事を通してどのように成長したいと考えているか、会社以外の活動や役割とどのように両立させたいと考えているのかなど、会社への期待値は一人一人異なる。直近数年間の人事トレンドを振り返ると、「自律的なキャリア形成」、といったキーワードが浮かんでくる。全社員一律の施策ではなく、社員一人一人が自律的にキャリアを選択し成長するためにはどのような仕掛けが必要だろうか。

これを検討するうえで有効な施策のひとつが、ユースケースの作成である(図表1-②)

社員基点の成長ストーリー

タレントマネジメントの高度化に取り組む企業の中には、一例として、「自律的な学習計画」、「プロジェクト型のアサイン促進」および「中長期的な異動ローテーション計画の運用」といったユースケースを策定し、社員の体験価値を高め、キャリア成長と会社の事業成長を実現しようという事例が出てきている。各社でも、人材獲得・育成のための施策に社員の視点が取り込まれているかどうか点検してみてほしい。

「自律的な学習計画」

社内にどのような仕事があり、その仕事に求められるスキル・知識は何か、という情報が明確になっていれば、キャリア目標を具体化し自律的に学習計画を考えられるようになる。上司部下間の1on1(キャリア面談)ですり合わせることにより、日々の業務割当から受講すべき研修の管理までパーソナライズされた学習計画を組み立てていくことができる。

弊社では、ATDEPというスキル管理・学習管理プラットフォームを開発し、タレントマネジメントに取り組む企業に提供している。社員は職種(人材タイプ)ごとに自分に求められているスキルを確認することができ、一人一人の成熟度に応じた学習計画を管理することができる。システム設定しておけば受講すべき研修プログラムの推奨も受けとれる(図表2)

「プロジェクト型のアサイン促進」

個々の社員のキャリア開発計画を実現するうえで、年1回の定期異動だけでは業務経験の機会が限られてしまう。成長機会のひとつとして社内プロジェクトを公募制にすることにより、所属組織を超えてプロジェクトに参画する機会を提供する。社員は現業の他にスキルを発揮・習得する機会を得ることでエンゲージメントが向上する。

「中長期的な異動ローテーション計画の運用」

一般的に、所属組織長や直属上司には、この社員には次期リーダーとして事業を牽引してほしい、といった社員ごとの期待値がある。一方で、社員は会社がどのような期待値を持っているか知らされないことが多い。育成対象者を選抜したうえで10年間の異動・配置先と育成目標を本人と共有することにより、エンゲージメント向上と計画的な後継者育成が実現できる。

これらのユースケースの実現に必要となる人事データや機能から、タレントマネジメントシステムを選択することが必要である。

人事部の視点

人事部の役割として、人材ポートフォリオを最新化し達成状況に応じた対応策を講じることと、社員一人一人のキャリア成長を支える施策の実行が求められる。タレントマネジメントシステム導入を検討、または、導入済みの企業では、システムに蓄積された人材データを活用した「業務・オペレーションの設計」と、ユースケースを実現していくために必要な「仕組みの整備」に取り組んでいる(図表1‐③/図表1-④)

システム定着化とカルチャー醸成

あるデジタル人材の育成に取り組む企業では、タレントマネジメントシステム上で全国の支店に設定した育成目標人数に対して全国平均を下回る支店の育成課題を分析し、対応策を講じるところまでをひとつの業務としている。システム利用を業務に落とし込むことで定着化を促す狙いがある。

ユースケース実現に必要となる仕組みの整備も重要な要素になる。そのひとつとして、ジョブ型の導入を検討する企業も増えている。ジョブ単位でスキル要件が定義されるため、メンバーシップ型と比べてキャリア目標は具体化しやすい。1on1の活用によりスキルを共通言語とした上司部下間のキャリア面談が進めば、社員基点のタレントマネジメントの実践に向けた社内カルチャーの醸成がさらに進むことが期待される。

SaaSシステム利活用のメリット

最後にタレントマネジメントシステムの設計・導入がある(図表1-⑤)。タレントマネジメントシステムの多くはSaaS型のプラットフォームであり、標準的な業務プロセスをもとに機能が用意されている。適用できれば効果が大きいが、既存業務の変更が必要になることもある。システム導入に合わせた既存業務や人事制度の見直しも重要な要素になる。既存業務をすべて移管しようとするとアドオンが増え保守性が失われかねない。

既に導入済みの企業においても、「3つの視点」と「5つの施策」で既存施策の有効性を点検してみてはいかがだろうか。

※FSアーキテクトは、金融業界のトレンド、最新のIT情報、コンサルティングおよび貴重なユーザー事例を紹介するアクセンチュア日本発のビジネス季刊誌です。過去のFSアーキテクトはこちらをご覧ください。

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