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デジタル化により、ビジネスは複合競争時代を迎えている。既存コア事業の取組に加え、新たな成長源泉の獲得を狙う取組(“イノベーション”)が複線化している状況にある。

IT部門はこれらの多様化するニーズに柔軟に応えられることが理想的だが、その取組にIT部門が主導的な役割を果たしている金融機関は少なく、既存のコアシステムの対応に軸足がある。

一方で、既存コアシステムにおいても更なる効率化、New IT活用が求められている。どこに力点を置いたIT組織にすべきか迷っているのが本音ではないだろうか。

本稿では、「マルチスピード型IT組織」へと転換させることを目指した、 IT部門としての組織設計の視点について論じたい。

1. IT部門に求められる役割の変化

マルチスピードIT

デジタル化により、IT部門はますます多様化するニーズに柔軟に応えられる組織への転換が求められている。「モノスピード型IT組織」から「マルチスピード型IT組織」(複数のガバナンスや開発アプローチを使い分け、適切な速度にギアチェンジできるIT部門)へと転換させる必要性だ。

テクノロジーの活用が競争力を左右する時代となり、IT部門には旧来の高信頼な金融インフラ提供以上の役回りが期待されている。先ず、事業ライフサイクル短期化、事業機会の早期発見のために、機動性が重要になっている。更に、先端技術・知見を取り込むために、外部資源の適時・適切な活用態勢も重要になっている。

これらの期待を踏まえると、「①デジタル領域:収益向上への貢献(スピード勝負)」「②レガシー領域:コスト効率向上への貢献(生産性勝負)」の観点でIT提供体制を大きく分ける必要がある(図表1)。

2. 組織設計ポイント

IT組織のベースモデル

前提となるモデルを踏まえておきたい。よりスピードを重視するならば、事業や商品・サービス等のビジネスサービス単位でIT組織を作るのが適している。変化が激しい、または多くの機能間連携が発生する案件では、ビジネス上の実現内容をダイレクトかつアジャイルに進められる状態が望ましい。ビジネス部門の意向をトップダウンで重視できる組織モデルとなる。

一方で、よりシステム開発の効率性を重視するならば、システム機能単位でIT組織を作るのが適している。変化が少ない、または安全性が最重視される案件では、機能の結合度に応じて組織を編成し、領域毎に専門性を蓄積できている状態が望ましい。IT部門としての開発効率性を追求できる組織モデルとなる。

このモデルを念頭に、対象領域の特性を踏まえた体制を設計することになる(図表2)。

IT組織設計パターン

具体的には、適用ケースとして3つの案件パターンが考えられ、このパターンに応じて組織編制を分けたい。

1つ目が従来から適用されてきた「基幹系型」だ。依然として信頼性が最重視され、ウォーターフォールで進むべきシステムに適している。今後、この領域に新規要件は少なくなり、有益技術の取り込みが役割の中心になる。担当組織はシステム機能単位で設計するのが望ましい。

2つ目が市場系システムに代表される「EUC型」だ。複雑な要件に基づくユーザーとの綿密なコミュニケーション、精緻な仕様調整が必要なシステムに適している。開発作業は専門性も高いためITベンダーに任せ、仕様の明確化・伝達が役割の中心になる。担当組織は、ユーザー部門内に設置(または物理的に一体化)し、システム群単位で設計するのが望ましい。

3つ目が最新テクノロジーを活用する「デジタル型」だ。デジタル案件では、そもそも何をどのように実現するのかが曖昧なままに進む。その状況下では、ビジネス人材(“ユーザー”ではなく、業務とITの双方を理解した人材)とIT人材(“仕様調整屋”ではなく、テクノロジーを迅速に実装できる人材)が役割分担を繰り返す推進が必要になる。ユーザー部門をリードする推進体制として、これらの人材が同居した組織を設計するのが望ましく、つまり旧来のIT部門という概念とは異なる。

なお、国内ITサービス産業の特性から最新テクノロジーの専門家を社内で用意するのは難しい面がある。ここで言うIT人材はITベンダーを活用するのが適切であり、既存IT人材の活用は期待しにくいのが本音だ(図表3)。

*本稿の主旨から外れるが、デジタル案件にはデザイン知見も欠かせない。その点でも外部活用が有効。

実現形態

組織パターンを編成する上で留意しておきたいのは、同一組織内に「基幹系型」、「EUC型」に加えて「デジタル型」を共存させるのは難しい点だ。当然、案件管理や開発手法等のガバナンスを分ける必要がある。人材タイプも異なるので、カルチャーも分ける必要がある。これらを同一組織で成立させることは難しく、海外金融機関等のデジタル先進企業においても別組織として切り出すのが主流だ。今後、時々の需要に応じて外部IT人材を内部に取り込む割合が高まることも予想される。デジタルIT組織は、外部人材活用を試行する意味合いでも先ずは別組織化が適しているだろう。

3. IT子会社の立ち位置

ここまでは自社IT機能をIT部門と表してきたが、多くの金融機関はIT子会社を抱えており、本体IT部門との役回りを意識した組織設計も重要な議題になるだろう。そこで、IT子会社に焦点を当てた話を簡単にしたい。

専門子会社による人材登用モデル

国内金融機関は、IT等の本業と異なる専門性は専門子会社を設置し、人事制度を区分けすることで人材登用してきた。これはミッションクリティカルなシステムの維持が役割の下では、自前での統制力を確保する目的で有効であった。これまではIT子会社が高品質な金融インフラの開発・維持に大きな役割を果たしてきた(図表4)。

ただし、前述の通りデジタル化がIT部門の役割を変えてしまっている。ソーシング手段を考えた場合、旧来のIT子会社経由でのITベンダー調達が有効なケースは減少しており、「基幹系型」にしかメリットが乏しくなっているのではないか。すなわち、親会社視点では、案件に応じたソーシング手段の使い分けおよびIT子会社を保有する意味合いを再考すべきタイミングにあると言える。

自立への道

逆にIT子会社視点では、「自立したITサービス会社」を目指さない限り、中長期的に価値のある存在では無くなる危機感を持つべきタイミングにあると言える。ITサービス会社としての中長期的な経営目標を明確化し、コミットするスタンスが不可欠である。

過去から培ってきた基幹系領域に関して、可能な限り内製化、可能なら外販を志向し、その態勢整備に集中する勇気が重要だ。デジタル領域のケイパビリティ強化に関しては優先順位が下がる。安易に基幹系人材のマンパワーをデジタル領域に振り向けようとしている企業が多いが、人材タイプの相関性は高くない。強化を目指すならば、元請の立場を活かした“再委託によるITベンダー管理型の仕事の仕方”ではなく、“再委託される”等によりITベンダーとの協業を志向し、地道な知見蓄積とカルチャー転換を待つ必要がある。

経営陣が強烈な危機感の下に組織変革を目指さない限り、価値のあるIT子会社にはなれないのではないかと強く案じている。

4. 終わりに

デジタル時代のIT組織として

  • 「基幹系型」(システム機能単位)、「EUC型」(システム群単位)、「 デジタル型」(開発推進体制)の3パターンを編成する。
  • 「デジタル型」は既存の人材・ガバナンスとは別組織にする。ITベンダーを直接活用する。

ことが設計ポイントであるとの持論を紹介した。

デジタル領域ではIT部門不要論さえも耳にする昨今であるが、ビジネスが求める要求スピードに柔軟に応えられるIT組織であれば、依然として必要不可欠な機能なはずだ。IT業に携わる者として、デジタル化の波の中でもIT部門が存在感を発揮し続けることを望んでいる。