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グローバル規模で加速するデジタル革命は、日本の金融機関にも大きな影響を与えつつあります。
変革のスピードは業界・市場によって異なりますが、世界をリードする先進企業の取り組みにはいくつかの共通点が見られます。その1つは、ディスラプションで最大限の成功を収めるために、デジタル・イノベーション分野で “オープン”な取り組みを行っていることです。弊社英国オフィスのGeorge Marcotteは、このテーマについてブログ記事を寄稿し、NetflixやExpedia、Amazon Web Servicesなどをその例として挙げました。こうした企業が持つ大きな特徴は、コアビジネスを拡大し、共感と知的刺激をもたらす顧客体験を実現するため、多様なパートナーとの連携をつうじてエコシステムを構築しているという点です。
そして、様々なアプローチを用いて変革をリードする先進企業の多くは、こうした取り組みにオープンAPIを活用しています。オープンAPIは、サードパーティーの提供するアプリケーションをシステム全体の中でシームレスに機能させる、いわば「万能アダプター」のようなもので、例えばNetflixのアプリは、TVからPC、スマホまで、現在使われているスクリーン付きデバイスのほとんどにインストールされていると言ってもいいほど普及しています。Expediaをはじめとする旅行予約サイトも、オープンAPIをつうじてホテルや航空会社、クルーズ(船旅)旅行会社とデータを共有し、リアルタイムの価格チェックや旅行予約を可能にすることで、既存の旅行代理店に対する競争優位性を確立しています。
こうしたデジタル・イノベーションを、決済や与信業務など様々なサービス分野で活用する必要性が高まっていることは、金融業界でも十分認識されています。例えば弊社が最近実施したアンケート調査では、オープン・バンキングを戦略的優先課題の1つと考える金融機関が、ヨーロッパでは全体の74%、北米では60%に上りました。特にEUでは、PSD2と呼ばれる新たな法的枠組みが今年から施行されており、外部機関による顧客オンラインアカウントや決済サービスへのアクセス向上とインターネット・バンキングのセキュリティ強化に向けた取り組みがさらに加速します。そのため域内の金融機関は、オープン・バンキングの推進を特に差し迫った課題として受け止めているようです。
日本の金融市場とオープン・バンキング
イノベーションや様々な分野の企業との連携をつうじ、新たな商品・サービスを生み出す必要性を、日本の金融機関が認識していることは言うまでもありません。しかし日本の市場では、ヨーロッパや米国のように既存プレーヤーの存在を根幹から揺るがすような変革は必ずしも見られません。金融庁などが進めるオープン・バンキング推進への取り組みも、PSD2とは文脈や性質が若干異なります。
またオープン・バンキングモデルの推進には、セキュリティ要件やコスト、オープンAPIとレガシーシステムのシームレスな連携の必要性など、少なからず課題がついて回ります。オープン・バンキングが日本の市場環境に今後及ぼす影響についても不透明な部分があり、金融機関は慎重に状況を見極めながら取り組みを進めているのが現状です。
オープン・バンキングのビジネス・ケース
市場環境を踏まえた現実的なアプローチは理に適ったものです。ただ、油断は禁物です。弊社が行なった調査では、オープン・バンキングを推進するグローバルバンクは2020年までに20%の収益増加を実現できる可能性がある一方、そうでない銀行はディスラプターに収益の30%を奪われる恐れがあるという予測が明らかになりました。こうした数字や変化の時期がそのまま日本に当てはまるかどうかについては議論の余地がありますが、この調査が今後の方向性を示唆しているのは確かです。
ただし、こうした数字に不安を感じ、慌てる必要はありません。オープン・バンキングやオープンAPIというコンセプトがもたらす潜在メリットについて期待が高まっているのは事実です。しかし、これらを新たな収益の流れや顧客体験の向上へと結びつけるために何をすべきかという側面に目を向けることも重要です。顧客が実際に何を求めているのかを真の意味で理解しなければ、オープン・バンキング・ソリューションの有効活用は望めないでしょう。例えば、決済や融資審査、住宅ローンなどリテール業務のソリューション、あるいは中小企業オーナー向けサービスなどは、オープンAPI活用のポテンシャルが高い分野と言えるかもしれません。
アジャイル開発がもたらすメリット
では現在の市場環境の下でデジタル・イノベーションを推進するため、日本の金融機関は何をすべきでしょうか?その鍵を握るのは、選択と集中、そして段階的アプローチです。一度に大規模な取り組みを進めるのではなく、改善の必要な部分に注力し、進化的適応を進めることが重要となるでしょう。こうしたアプローチを取り入れれば、小回りのきく形で実験的取り組みを行い、効果が認められた場合にのみ実用化を進める、つまり「アジャイル開発」のメリットを活かしたイノベーションが可能となります。
アクセンチュアのACTS(Accenture Connected Technology Solution)は、まさにこうしたアプローチを念頭に置いてデザインされたソリューションです。特定パッケージ導入の必要性や「ベンダー・ロックイン」のリスクがないオープンソース・プラットフォームであるACTSは、日本の金融機関がオープンAPIソリューションの効果的活用を模索し、迫り来るディスラプションに対応する体制を整える上で最適な選択肢と言えるでしょう。