日経ビジネス 2020年11月9日号掲載記事のご紹介

アクセンチュア 常務執行役員 金融サービス本部 統括本部長 中野将志氏

三井住友海上火災保険 取締役 副社長執行役員 舩曵真⼀郎氏

「Efma-Accenture Innovation in Insurance Awards」[1]の人材変革部門で、シルバーを受賞した三井住友海上火災保険。評価されたのは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として、デジタル人材の育成を推進する数々の取り組みだ。背景にある考えや目指す姿について、DXをけん引する舩曵真一郎氏にアクセンチュア金融サービス本部統括本部長の中野将志氏が聞いた。

存在意義が再認識された保険業務を高度化する

中野: デジタル人材の育成を中心に、DXを推進してこられましたが、その目的と背景を教えてください。

舩曵:保険事業の高度化による社会的課題の解決を目的として、DXを進めてきました。昨今、自然災害が頻発化・激甚化していることに加え、社会全体のデジタル化や無形資産化により、サイバーリスクも高まっています。また、これらに加えて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大も生じました。こうした変化は、私たち損害保険会社の存在意義と、当社の「ミッション・ビジョン・バリュー」を再認識する機会にもなりました。例えば、当社のミッションは“グローバルな保険・金融サービス事業を通じて、安心と安全を提供し、活力ある社会の発展と地球の健やかな未来を支える”ことですが、伝統的な手法でできることには限界があります。そこで、強みであった資本力だけに頼るのではなく、アイデアやイノベーションを生む力を育み、それを生かしたいと考えています。そのためにはデジタルを活用し、保険事業をより高度化することで、社会的課題を解決していきます。

中野:当社もお手伝いをしましたが、企業の抱えるリスクを可視化・最適化し、課題解決を図るためのサービス「RisTech(リステック)」といった取り組みは、すでに実現されていますね。

舩曵:「RisTech」は、「Risk」と「Technology」を組み合わせたもの。保険事業に関わる情報は昔からたくさんありましたが、データ化されていませんでした。私自身も若い頃に営業活動を終えてから、お客様一人ひとり異なる情報を紙に転記していたので、PCで使えるデータベースソフトが出てきたときに、その便利さを実感したことが忘れられません。ですから、情報をデータ化し、そのデータを用いてお客様への提案やお支払い方法など、保険業務の高度化に取り組んできました。この過程で、企業や社会の抱えるリスクが可視化できれば、社会的課題の解決が可能だと気づきました。

保険は人が人から買う商品BtoBtoCをデジタルで変革

中野:AIを活用した代理店営業支援システム「MS1 Brain(エムエスワン ブレイン)」もユニークです。

舩曵:どれだけデジタル化が進んでも、お客様は保険商品を“誰から買うか”を重視されます。お客様が保険に加入される際は、よく知った分かりやすい商品を購入するのとは異なり、複雑な商品を「いざというとき、この人は助けてくれるのか」を見極めながら判断するからです。したがって、一見すると先進的に感じられるBtoCへの変更はせず、あくまでBtoBtoCを維持するべきと考えています。当社のビジネスパートナーである3万6000店を超える代理店は、私たちにとって不可欠な存在であることは今後も変わりません。そこで、代理店の方々の業務を高度化・最適化し、その結果として、お客様の満足度を高められるようなAIを搭載した代理店営業支援システム「MS1 Brain」を開発しました。仕組みとしては、まずAI がお客様に最適な商品をリストアップし、代理店のスタッフがチェックする。このフローにより、今まで以上にお客様に最適な商品の提案が可能になると考えています。単に保険販売を効率化するだけでなく、お客様にも納得して購入いただける環境をつくれるのです。

人材育成がDX 推進のカギ海外展開のための拠点も整備

中野:そうしたデジタル基盤を整備する一方で、人材基盤・ワークスタイルの変革も力強く進めてこられました。

舩曵:せっかく基盤を整えても、使う側が成長しなければ意味がありません。例えば、本社の一部の社員やデータサイエンティストといった限られた人材だけが成長しても意味がなく、全社員が成長しなければDXは推進できませんし、保険事業の高度化も実現しません。また、デジタル部門だけが先に進み、ビジネス部門がついていけない、逆にビジネス部門の過大な要求にデジタル部門が抵抗することも避けなければいけません。

そこで、社内のデジタル人材育成体制を整備し、大学と連携した人材育成プログラムを始めています。2018年には新設されたばかりのINIAD[2] と提携して「MSデジタルアカデミー」を、今年7月にはKUAS[3]と提携し、「MS&ADデジタルカレッジfrom 京都」を創設して社員の学びの場を用意しました。この他、社員の発想力を磨くための「デジタルイノベーションチャレンジプログラム」や、24時間365日、自由な時間に無理なくスマートフォンからデジタルを学べる「DVP(デジタルビデオプラットフォーム)」を開発しました。

中野:そうした取り組みは、今後グローバルにも展開されていく予定ですか。

舩曵:日本だけでなく、グローバルでもDX を進めたいと思っています。ただ、それぞれの地域でDXによって得られる強みは異なるため、まずは東京・シンガポールで「グローバルデジタルハブ(GDH)」を開設し、今後、シリコンバレー・ロンドン・テルアビブにも拡大していきます。例えば、ロンドンのGDHでは、世界的な保険市場であるロイズのシンジケートの一つ、MSアムリンの持つ情報を軸に、アジアや米国を含めたグローバルで取引先企業の持つデータ課題に対して、当社がデータ分析支援を行い、価値のあるデータ分析結果を提示し、社会との共通価値を創造する「Global RisTech」の展開を可能にしました。

中野:なるほど。まさに、変革を通じた人材づくりの真っ只中ということですね。

舩曵:こうしたプロセスを進める中、アクセンチュアさんへの期待感と信頼感は高まる一方です。グローバルな情報収集力を持ち、それを生かして、発展的な変革の手段を提案してくれます。

中野:今後も、グローバルでの変革パートナーとして支援させていただければと思います。本日はありがとうございました。

[1] Efmaとアクセンチュア共催のアワードで、保険業界における企業の革新的なイノベーションの取り組みを紹介し、促進することを目的に2016 年に創設
[2] 東洋大学情報連携学部
[3] 京都先端科学大学

プロフィール

Masashi Nakano
アクセンチュアへ新卒入社。金融機関のシステム開発やテクノロジーコンサルティングを経験後、戦略グループへ異動。金融業界の事業戦略や海外展開の支援、M&A戦略などに携わり、13年金融サービス本部統括本部長、17年12月から現職。

Shinichiro Funabiki
1983年に神戸大学を卒業後、住友海上火災保険へ入社。営業企画部長、経営企画部長などを経験後、2017年に取締役専務執行役員就任。20年4月、MS&ADインシュアランスグループホールディングス執行役員グループCDOに就任し、現職。

詳しくはこちらをご覧ください。