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第1回に記したようなFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)の取組みや海外諸国の取組み(注1)も踏まえつつ、金融庁や財務省等は、以下のような資料の公表等により、「マネロン対策と新技術」に関連して、民間金融機関に「期待」を示したり、当局自身としての舵取りを進めようとしたりしている。

(注1)海外諸国では、AML/CFT関係当局が民間金融機関やFintech企業等に声をかけて、AML/CFTへの新技術活用を進めようとする動きが数多くみられる。

ごく一部を紹介すると、例えば次のとおり。

1.金融庁:マネロンガイドライン

金融庁は、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(20211122日公表)の本文33頁のうち第20頁の「(5)FinTech 等の活用」において、以下を記している。

マネロン・テロ資金供与対策においては、取引時確認や疑わしい取引の検知・届出等の様々な局面で、AI(人工知能)、ブロックチェーン、RPA(注)等の新技術が導入され、実効性向上に活用されている。

こうした新技術のマネロン・テロ資金供与対策への活用は、今後も大きな進展が見込まれるところであり、金融機関等においては、当該新技術の有効性を積極的に検討し、他の金融機関等の動向や、新技術導入に係る課題の有無等も踏まえながら、マネロン・テロ資金供与対策の高度化や効率化の観点から、こうした新技術を活用する余地がないか、その有効性も含めて必要に応じ、検討を行っていくことが期待される

(注)RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション):人工知能等を活用し、書類作成やデータ入力等の定型的作業を自動化すること。

【対応が期待される事項】

a. 新技術の有効性を積極的に検討し、他の金融機関等の動向や、新技術導入に係る課題の有無等も踏まえながら、マネロン・テロ資金供与対策の高度化や効率化の観点から、こうした新技術を活用する余地がないか、その有効性も含めて必要に応じ、検討を行うこと

(上の枠内で「赤字」にしたのは、本稿の筆者であり、原文のものではない。)

2.金融庁:マネロン現状と課題

また、金融庁は、「マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題(2022 年3月)」(202248日公表、本文100頁の大部のもの)の9799頁で、次で始まる文章を載せ、Vol. 1に示したようなFATFの活動を紹介した(注2)。

FATFでは、デジタル・トランスフォーメーションがマネロン等対策にもたらす便益、効率性、コスト削減、課題について調査するプロジェクトに取り組んでおり、2021 年7月に、「AML/CFT 分野における新技術の機会と課題」及び「データプーリング、共同分析とデータ保護にかかるストックテイク」と題する2つの報告書を公表した。

また、クロスボーダー送金の改善に向け、2021 10 月に、「クロスボーダー送金における FATF 基準の実施に関する調査結果報告書」を公表した。

(注2)金融庁は、2022323日に「諸外国におけるマネロン等対策の実態調査と先進事例の分析に関する調査研究」と題する企画競争に関する公告を行った。

この「調査研究」は、①MLに関する情報共有と個人情報保護や、②デジタル技術等を活用したMLリスク分析等について、海外の先進事例の調査を委託調査で実施しようとするもので、20233月末にも報告書を公表するとみられている。

3.財務省等:マネロン対策推進基本方針

財務省等による「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策政策会議」が公表した「マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の推進に関する基本方針」(2022519日公表)は15頁の比較的コンパクトなものだが、本文は次の6章に分かれている。

    1. マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の意義
    2. 本文書策定の経緯・目的
    3. 我が国を取り巻くリスク
    4. 取り組むべき4つの柱
    5. 具体的な対策
    6. おわりに

このうち「4.取り組むべき4つの柱」の章の2番目の柱が「(2)新たな技術への速やかな対応」とされ、次の枠内のとおり記している。

(2)新たな技術への速やかな対応

暗号資産等の新たな技術の普及に伴い、国内外の経済・金融活動が大きく変化しつつあり、それに伴い顕在化するマネロン・テロ資金供与・拡散金融リスクに対し、我が国も速やかに対応することが求められる。その際には、新たなリスクに目を向けることに加え、デジタル・トランスフォーメーションの進展を捉え、当局や金融機関等による対策の実効性や効率性の向上も進めていくことが重要である。

我が国では、FATFの暗号資産に関するコンタクトグループにおいて、日本が共同議長として、各国当局者との議論や民間との対話を通じ、暗号資産に関するFATF基準のグローバルな実施促進や、暗号資産に関するマネロン・テロ資金供与・拡散金融対策上の各種課題の設定及びその対処に向けた提言等の策定を主導するなど、積極的に参画しているところ。こうした取組を強化することで、新たなリスクを的確に把握し対応するとともに、新技術の適切な活用によって、マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の実効性・効率性の向上に努めていく。

(上の枠内で「赤字」にしたのは、本稿の筆者であり、原文のものではない。)

なお、「4.取り組むべき4つの柱」の章の4番目の柱は「(4)関係省庁間や官民の連携強化」とされている。

このうちの「官民の連携強化」に関連して、FATFは「情報共有とデータ保護」についての報告書を7月中に公表予定である。