金融サービスブログ    

近年、ESG投資(Environment、Social、Governance)への注目が急速に高まっており、金融機関においてもサステナビリティに配慮した企業活動や商品・サービス提供が求められています。本稿では、金融機関のウェルスマネジメントビジネスに焦点を当て、ウェルスマネジメントビジネスにおけるESGの重要性やESGを取り入れた商品・サービス実現に向けたステップをご紹介します。

存在感を増すESG投資

日本を含めた世界のESG投資残高は拡大傾向が続いており、新型コロナ危機の発生によってESG投資への注目は急速に高まっています。もはや企業は財務的な成長を追求するだけでは十分ではない状況です。アクセンチュアが北米で実施した調査では、ファイナンシャルアドバイザーの73%が顧客からESG投資について定期的に質問・相談を受けていると回答しています。投資家は、どの企業がサステナビリティに関する活動を測定しているか、そしてどのように環境リスクを減らし、社会を支援し、良いガバナンスを確立しているかを理解することに興味を持っていることは明らかです。
また、サステナビリティへの取組みは中長期的な企業価値に貢献しているといった各種調査・研究が示されており、「サステナビリティと財務的な成果にはトレードオフがある」という否定的な考えはもはや受け入れがたい状況でしょう。
今後も、世界的なトレンドとしてESGの重要性は増していくことが予想されますが、加えて、国内のウェルスマネジメントビジネスにおいては顧客ニーズを起点としたアドバイスモデルへの転換が加速することで、更なるESGの浸透を後押しする要因になると考えています。

新たなアドバイスモデルとESGの融合

フィデューシャリー・デューティの取組み進展等による収益率や資産回転率の低下を背景として、金融機関がトップラインの成長を実現するためには、従来の商品販売型の営業から脱却し、顧客の課題・ニーズを起点としたポートフォリオアドバイスへとアプローチを転換することが求められています。
こうした中で日本では資産管理型のアドバイスモデルへの転換が長らく叫ばれてきましたが、直近では海外金融機関で取組みが先行しているGoal-Based Wealth Management(顧客の投資ゴールを踏まえたポートフォリオ構築)の導入を検討する動きが広がっています。昨今のマーケットボラティリティの拡大に伴い、短期的な投資運用判断が困難を極めている状況から見ても、顧客のニーズに沿った中長期視点のポートフォリオアドバイスを提供することはますます重要となるでしょう。ESG投資は短期的な投資パフォーマンスではなく中長期的な資産形成・保全を期待した投資手法と位置付けられるため、新たなアドバイスモデルとして組み込まれるGoal-Based Wealth Managementとの相性が良く、中長期視点の資産安定性を裏付ける手法の一つとしてESG評価の重要性が増していくと考えています。
ウェルスマネジメントを展開する金融機関は、「ESGサービスを拡大し、クライアントとクライアントが住む世界により良いサービスを提供するにはどうすればよいか」を自問し、実用化に向けて行動することが求められています。弊社ではESGを融合したサービスを実現するためのアクションは、大きく3つのステップに分かれると考えており、次からはそのステップについてご紹介したいと思います。

ESGサービスの実用化に向けたステップ

 

1.ESGフレームワークの確立

最初のステップは、ESG投資戦略を支える適切なフレームワークと指標を確立することです。
投資家がポートフォリオにESGの観点を取り入れない大きな理由としては、ESGに対する理解の不足が考えられます。アドバイザー・顧客の双方が容易に理解できるESG投資戦略およびそのフレームワーク・指標がないことには、アドバイスモデルへ組込みこむことが困難です。投資家は投資パフォーマンスと同様に、自身のポートフォリオや提案される商品に関するESG情報を把握、追跡したいと考えるようになり、金融機関はESG評価を可能な限り正確かつ容易に理解できる形で提供することが今後一層求められます。
今後の大きな課題の1つは、業界標準の欠如とESG指標・情報の断片化です。各社それぞれの取組みに加え、業界を挙げた共通的な評価基準を設けるといった取組みも有効なアクションになると考えています。

2.ESG商品・サービスの再構成

次のステップは、ESGフレームワークと指標に沿って商品・サービスを再構成することです。「ESG」と名のついた投資商品以外にもESG観点で高く評価されるべき投資商品が多数存在しているのですが、顧客が把握しづらいのが実情です。金融機関は自社のESGフレームワークに基づいて投資商品の評価を広く行い、顧客へ情報提供することが、顧客ニーズに沿ったアドバイスにESGを融合していく上で重要となります。
自社で膨大な投資商品に対するESG評価を行うことは現実的に難しいと想定されるため、外部のデジタルツールやリソースを活用することが有効な手段となります。近年では、幅広い投資先企業のESG評価を継続的にモニターできるツールを提供するプレイヤーが出てきています。
また、商品・サービスを強化する観点として、グリーンボンドやコロナ債のような新たな商品の創造を継続することも重要です。「社会貢献」をキーとした創造的なサービスは、従来のような投資商品の開発・提供に限りません。例えば、社会貢献意識が高い富裕層向けのサービスを想定した場合には、同じような社会課題に対して問題意識を持つ顧客から資金を募った私募ファンドの組成、財団への出資仲介、投資・出資先の社会貢献活動への参加機会の提供、といった新たな顧客体験を提供できるのではないでしょうか。ウェルスマネジメントサービスを通じて、金融機関が顧客と共に社会課題の解決にアプローチする取組みは、社会全体にとっても非常に価値のある取組みになると考えています。

3.パーソナライズされたアドバイス提供

最後のステップは、個々の顧客にパーソナライズされたESGサービスを提供することです。
前述した通り、日本でも顧客ニーズに立脚したアドバイスモデルの浸透・拡大が見込まれますが、顧客のESGに対する考えを深く理解して、顧客ポートフォリオにおけるESG比率調整やESG銘柄の組込みを行うことで、顧客にパーソナライズされたより良いアドバイスを提供することができます。デジタルを駆使することで、顧客のリスク許容度、投資ゴール、ESGプロファイルの全てにマッチする複雑な分析を自動化してポートフォリオに組入れ、継続的なモニタリングを行うことが有効でしょう。
ここでのアドバイザーが提供すべき重要な価値は、ESG評価が高いポートフォリオの構築を闇雲に追求するのではなく、顧客が環境、社会、ガバナンスのどこに強い興味があるのを深く理解し、顧客の考え・志向に沿って顧客ポートフォリオをカスタマイズすることにあります。例えば、ESG観点で問題のある投資先を除外したいのか、ESG観点で優れた投資先を積極的にポートフォリオに組み入れたいのか、といった方針によってもポートフォリオ構築のアプローチが異なります。いずれにせよ、投資家とアドバイザーの会話は投資の期待利回りだけではなく、社会貢献の観点で投資をする意味合いに及ぶことが当たり前の世界が訪れると考えています。

終わりに

金融機関が取組むウェルスマネジメントビジネスは顧客と共に社会を変える可能性を秘めています。ウェルスマネジメントビジネスにESGを融合していくために、金融機関は外部のパートナーやソリューション、加えて顧客との共創が重要になると考えています。弊社が有するコンサルティングの知見や先進テクノロジーとのパートナーシップを活用頂くことで、金融機関の皆さまとウェルスマネジメントサービスや社会の発展を実現していきたいと考えています。