日本の金融業界とオープンバンキングの未来:第1回
デジタル時代の新たなビジネスモデル オープンバンキングを活用する動きが国内外で加速しています。日本が今後取り組みを推進する上で鍵となる要因とは何でしょうか?海外の先進事例が示唆する日本に適したモデルとは?第1回目(全2回)となる本ブログでは、規制とイノベーションの両立という課題に焦点を当てて海外の事例を紹介し、日本の金融機関が留意すべき点について解説します。
日本では現在、デジタル時代の新たなビジネスモデルともいうべきオープンバンキングの取り組みが始まろうとしています。銀行の保有する顧客データや機能を第三者企業に開放することで、金融・非金融分野の様々な商品・サービスをエコシステム上に展開できるなど、オープンバンキングは金融機関に新たな可能性をもたらすコンセプトです。
市場競争の激化やテクノロジー革命により、ビジネスのオープン化と連携が不可避のトレンドとなっている今、日本の規制当局・金融機関には、この新たなビジネスモデルを最大限活用する取り組みが求められているのです。
日本がオープンバンキングを推進する上で、海外の先進事例を参考にして自らに適したアプローチを考えることも有効でしょう。いくつかの国・地域では、すでに市場の発展・成熟が進んでおり、収益性のある実ビジネスとして急速に確立されつつあります。世界のトレンドや成功事例を学ぶことで、日本の環境に最適なモデルをより明確に理解することができるはずです。
規制とイノベーションの両立に向けて
オープンバンキングの取り組みは各国で異なり、大きく3つのグループに分けることができます。1つ目は、オープンバンキングの流れが見られない国々。2つ目は、金融機関・フィンテック・規制当局の連携をつうじた取り組みが進んでいる国々(例:シンガポール)。3つ目は、規制当局が金融機関を主導する形で取り組みを進めている国々です(例:EU諸国・英国)。
規制当局の対応が、オープンバンキングのあり方を大きく左右します。例えば英国では、規制当局が主導して取り組みを進め、銀行・第三者企業のデータ共有・連携ツールであるAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)の技術標準を定めています。このアプローチでは、第三者企業が複数の金融機関と容易に連携できるというメリットがある反面、コンプライアンスの側面が強調されることで新商品・サービスの創出やイノベーションの推進が阻害される可能性もあります。
一方、規制当局が調整役に回るシンガポールのようなアプローチでは、標準化が十分に徹底されない恐れがあります。例えば、同国のDBS銀行とUOB銀行が仕様の異なるAPIを開発すれば、互換性の著しい低下につながりかねません。こうした問題が市場にどのような影響を及ぼすのか、現時点では不明です。しかし、オープンバンキングの拡大とエコシステムの発展を促すため、業界全体でインフラ標準化の努力が求められることは確かでしょう。
規制とイノベーションのバランスが求められるという点では、日本も例外ではありません。複数の金融機関が協力して基準を設定するスイスのモデルは、日本のメガバンクにとって参考になるでしょう。
日本の規制当局は、連携を重視する香港金融管理局(HKMA)のアプローチにも注目しています。セキュリティや収益性といった課題を金融機関と共有し、規制とオープンな仕組み、連携という要素を巧みに組み合わせる同局のモデルには、学ぶべき点が多く見られるからです。
変革の波
日本の金融業界が大きな変革の波に直面する今、イノベーションを活性化させる環境の構築は緊要の課題となっています。依然として現金志向が強い日本で特に求められるのは、キャッシュレス化の推進による決済の利便性の向上や利用シーンの拡大、トランザクションコストの削減、日本銀行が指摘した様々な問題を解消することです。
また金融庁も、キャッシュフローの透明化や現金取扱コストの削減、生産性向上をつうじた労働力不足への解消などを目指し、2027年までにキャッシュレス決済の割合を40%(2016年時点の約2倍)まで拡大させるという目標を掲げています[1]。こうした取り組みが、コネクティビティ向上やイノベーション推進につながることは、オーストラリアのリアルタイム決済プラットフォーム(NPP)の事例でも証明されています[2]。
日本では、クレジットカードなどの決済商品が大手金融機関の重要な収益源となっており、新たな競合相手がこの分野で台頭すれば大きな脅威となる可能性があります。規制による枠組みの中で、多様なプレーヤーの共生が可能なオープンバンキングは、こうした分野で特に有効なビジネスモデルと言えるでしょう。
ただし、規制当局の役割はあくまでも枠組み作りです。金融データを開放し、新たなプレーヤーと共生しながら高収益分野での市場プレゼンスを維持拡大するなど、この機会から新たな価値を創出できるかどうかは、各金融機関の戦略にかかっているのです。ブログシリーズの第2回では、海外の先進事例を参考として紹介し、日本の金融機関がどのようなアプローチを取るべきなのか検証します。
[1] https://asia.nikkei.com/Business/Banking-Finance/Japan-looks-to-double-cashless-payments-in-10-years