2026年初回の金融ウェビナーでは、毎年恒例の新年特別企画として、「2026年の金融業界の勝ち筋:テクノロジーと人間の創意工夫による新たな価値創造」をテーマに、銀行、証券、保険の各業界を統括するマネジング・ディレクターが登壇しました。
短期的には金利上昇による恩恵を受ける金融業界ですが、中長期的には人口減少や世界経済の動向、テクノロジーの進化などの不確実性に直面しています。本レポートでは、銀行・証券・保険の各業界が取り組むべき変革のアジェンダを解説します。
銀行業界:好業績の今こそ構造改革を加速
銀行業界は「金利ある世界」の到来により、多くの金融機関で過去最高益レベルの決算が続いています。しかし、銀行統括の宮良は、「短期的には投資体力や時間的猶予を得たが、中長期的には決して楽観視できない」と警鐘を鳴らします。
人口減少による国内市場の縮小、サイバーセキュリティコストの増大、そして世界経済との連動によるリスクの複雑化。こうした課題に対し、2026年に取り組むべきは「構造改革の加速」です。宮良は、「大胆な効率化」「探索・チャレンジの加速」「ビジネスアジリティの強化」という3つのキーワードを提示しました。
まず「大胆な効率化」について、AI技術の進化により、銀行業務の40〜60%は代替可能と言われています。もはやPoCの段階は過ぎ、生産性を倍にする、あるいはコストベースを半減させるといった高い目線での構造改革が求められます。
重要なのは、個別の業務をAIに置き換えるだけでなく、エンド・トゥー・エンド(E2E)でプロセスをゼロベースで再構築することです。例えば法人営業では、準備や手続きといった付帯業務にAIを活用し、顧客対話に集中できる時間を創出する。本部業務では、属人化した業務をAIで「型」化し、何百種類もの定型業務をワークフローシステムとAIの連携で自動化する、といった取り組みです。
次に「探索・チャレンジの加速」は、効率化で捻出したリソースを活かした高付加価値分野への進出を指しています。例えば、顧客企業の経営状況を把握して課題解決に取り組む「課題解決型ビジネス」や、自らリスクテイクして新しい事業へとチャレンジすることなどが挙げられます。
最後に「ビジネスアジリティの強化」として、変化を前提としたカルチャーと人材ポートフォリオの構築も急務です。5年後、10年後にどの領域にどのような人材が必要かを定義し、構造改革プロジェクトそのものを「人材育成の場」として活用する。そして、リーダー自身が変化を歓迎し、行員全体のオーナーシップを高めるカルチャーを醸成することが、中長期的な競争優位につながります。
証券業界:RWAトークンの拡大とAIによるバックオフィス変革
証券業界では、伝統的金融と分散型金融の融合が加速しています。証券統括の早川は、2026年の注力テーマとして「RWA(Real World Asset)トークン」と「バックオフィス変革」を挙げました。
まずはRWAトークンについて、ブロックチェーン上で現実資産を管理・移転するRWAトークンの市場は、米国を中心に急速に拡大しています。
ステーブルコインの発行規模は約41兆円(2025年8月末時点)に達し、決済手段としての地位を確立しつつあります。また、ステーブルコインには金利がつかないという課題を解決するため、国債などを裏付けとした利付きのMMFトークンが急増しています。
そして株式を裏付けとした「株式トークン」も登場しています。従来は、市場の開場時間や決済までの時間、国別の規制などの制約が多々ありましたが、株式トークンは24時間365日取引が可能になり、仮想通貨やステーブルコインの即時決済も可能になります。
また、証券業界のバックオフィスには、マニュアル化されていない属人的な「少量多品種業務」が数多く存在します。従来の手法ではコストが見合わずシステム化が見送られてきましたが、生成AIがこの壁を突破しつつあります。
マニュアルやメモ、有識者へのヒアリング内容などをAIに学習させ、「業務RAG(検索拡張生成)」を構築することで、業務フローの作成や知識継承を効率化できます。さらに、AIエージェントが業務RAGを参照しながら自律的に作業を行うことで、制度変更やコンプライアンス対応にも柔軟に対応できる体制が整います。
注意点として、インプットの質に左右されること、業務プロセスについては有識者のレビューが必須といった点はありますが、一定の効果は十分に期待できます。
保険業界:「企業価値向上」と「ITモダナイゼーション」の2大テーマ
保険業界を取り巻く環境は、金利上昇、甚大化する自然災害、そして顧客ニーズの多様化など、激しい変化の只中にあります。他業界と同様、AIをはじめとしたテクノロジーの進化も大きなトレンドです。こうした変化に対応するため、保険統括の林は、「企業価値向上」と「ITモダナイゼーション」という2つの注力テーマを提示しました。
まず「企業価値向上」について、日本版スチュワードシップ・コードの推進により企業価値向上への取り組みは進んでいますが、投資家からの評価には依然としてギャップがあります。日本の保険会社は「財務健全性」や「株主還元」を重視する傾向にありますが、投資家はそれ以上に「利益成長性」や「中長期的な無形資産投資(人材、DX、研究開発)」を重視しています。
林は、「CFOだけでなく全ての事業責任者が、資本効率や将来の成長ストーリー(期待価値)を意識した経営を行うべき」と強調しました。特に日本の保険会社は、財務価値に比べて期待価値(将来価値)が低く評価されているケースがあり、IRコミュニケーションの改善も含めた戦略的なアプローチが求められます。
次に「ITモダナイゼーション」について、多くの保険会社でフロントエンドのデジタル化は進みましたが、バックエンドのレガシーシステムにはあまり手をかけられていない企業が少なくありません。ですが、本格的なAI活用にはレガシーシステム内のデータ連携が不可欠です。
AI活用を前提とした「将来の標準装備」に対応するためには、メインフレームからの脱却が避けて通れません。アクセンチュアの「MAJALIS」などのツールを活用し、現行資産を可視化・変換しながら、AI時代に即した柔軟なシステム基盤へと刷新する「ITモダナイゼーション」は、経営の雌雄を決するアジェンダとなります。
総括:変化のスタートを切れるかが勝負の年に
さて、ウェビナーの最後、統括本部長の中野は、各業界の展望を以下のように総括しました。
銀行業界については、収益環境の好転を活かし、営業力強化と効率化を同時に進めるターニングポイントであること。証券業界は、インフレ下での資産運用ニーズを取り込むため、トークン化などの新技術を実装し、少量多品種業務をAIで効率化すること。そして保険業界では、財務価値だけでなく「期待価値」を高めるため、収益構造の変革と将来への投資を加速させること。
AIをはじめとしたテクノロジーの進化は全ての業界に共通するトレンドですが、トリガーとなる業界ごとの環境変化をつかみ、いかに迅速に対応できるかが2026年の重要なポイントとなります。変化を恐れず、新たな価値創造に向けてスタートを切れるかどうかが、金融機関の未来を決定づけるでしょう。
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