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2018年に経済産業省が「DXレポート」を発表したことを受け、業種・業態を問わず多くの企業がDXを推進している中、金融機関の多くの企業も変化し続ける顧客行動やニーズをすばやく察知し、他社との利益競争に勝っていくために、DXの一環としてデータ駆動型ビジネスを推進している。

一方で、ビジネス拡大をするため、企業が利活用すべき保有データが年々増加しているにも関わらず、データ自体は保管していても効率的にデータを活用するためのガバナンスを整備できていない企業が多く見受けられ、自社のデータを適切に管理する「データマネジメント」の重要性が高まっている。

本稿では、データ駆動型ビジネスを支えるデータマネジメント推進のポイントを金融機関における弊社事例を踏まえてご紹介したい。

データ利活用ビジネスの普及

国内金融機関では、業務で扱う様々なデータを利活用してビジネスを拡大するデータ駆動型が普及し始めており、近年の急速なデジタル化による取扱データ量や種類の大幅増加、顧客のニーズの多様化による顧客満足度向上の提案、他社との差別化が必要となっている。

これらの理由から、膨大かつ多様な情報から必要なデータを適切に取り出し、データを活用した経営層の意思決定や、より顧客ニーズに合わせパーソナライズ化した提案・情報をスピーディに提供することが求められるため、保有するデータ利活用の体制構築の整備が重要となっている。

環境変化への海外金融機関の動向

今日の金融機関は、テクノロジーとデータの利活用に長けた仮想通貨等のフィンテックビジネスやデータ分析、AIに長けたベンチャー企業が競合相手となっている。

このような競争環境の変化に備え、先進的な海外金融機関は、データ分析の専門部署設置と分析人材派遣、データ分析のプロセス標準化、外部データの取り込み等、「意思決定」に必要なデータを経営層に提供する態勢を急ピッチで構築し、データ利活用を通じた「意思決定」ができる体制整備で先行している。

一方で、国内の金融機関もデータプラットフォームの構築やCRM・BIツール導入およびデータ分析専門部署(データCOE)の設置等の取り組みを進めているが、広範なデータの集積・利活用に基づく包括的な意思決定サイクルにおいては海外金融機関に後れを取っている状況である。

では、なぜ国内の主要金融機関ではデータ利活用が進んでいないのだろうか。

データ利活用促進の主たる課題例

変化する外部環境や海外主要金融機関の動向を受け、国内の主要金融機関にとって意思決定の高度化や顧客行動の変化に対する営業員の行動変容が喫緊の課題となっており、CRMやデータプラットフォーム、BIツール等を導入し、データ分析の専門部署を設置するなどの取り組みを積極的に行っているが、十分な成果が表れていない。

以下、具体的にビジネスやシステムの観点から具体的な課題を例示する。

ビジネスにおける課題例

<経営者向けの課題例>

  • 金融機関の意思決定に有益となる分析・報告ができないため、適時・適切な意思決定ができない
  • データ定義のバラつきがあり、報告内容に応じて都度手作業での補正・加工が必要となる

<顧客・営業員向けの課題例>

  • 顧客ニーズに合わせた有益な提案や情報提供をタイムリーに提供できていない
  • スキルをもつ人材が各部に散在しており、分析手法も各部各様でノウハウが蓄積されない

システムにおける課題例

  • データ構造に関するルールがなく、システムごとにコード体系や粒度が異なり、データの体系を揃える負荷が大きい
  • データ配置・フローがシステムごとの個別最適となっており、一元的に集約・統制できず、開発・運用保守にコストがかかる

各社多くの課題が存在する中、ビジネスが必要となるデータを単純に蓄積するプラットフォーム構築への注力に陥りがちであり、利用者が使い易いプラットフォームになっていない事が多い。

弊社では、上記課題を解決し、データ活用を促進する為に、「データ活用戦略の立案」「データマネジメントの方針策定」「データプラットフォーム構想立案」の3つのポイントを正しく検討推進していく必要があると考えている(図表1)。

 

では、実際にデータマネジメントを推進する上で重要となるポイントは何だろうか。

データマネジメントのポイント

データ活用戦略の立案

「データ活用戦略」は、企業やデータ利用者それぞれで定義されており、一般的に確立された定義がある訳ではないが、その時々企業の経営方針(中期経営計画等)に従って、全社的に必要なデータを理解した上でのビジョンの策定と、各ビジネス部門における優先領域を見極めた上でデータ活用施策を定義する。

実際に、データ活用のロードマップを策定し、対象部門のユースケース策定・対応方針の検討、POCの実行計画策定等が重要なポイントとなる。

データマネジメントの方針策定

前段で定義したデータ活用戦略を実現するためには、データの整備・品質確保に向けたルールやプロセス、組織等の定義を行うことが必要であると考えられ、弊社においても「データマネジメントフレームワーク」における6つの検討すべき論点を整備している(図表2) 。

 

データマネジメントの方針策定における弊社事例では、「データガバナンス」「データ管理」「データアーキテクチャ」「データセキュリティ」の方針策定を重要視しており、実際に優先度高く着手している企業が多い。

一方で、「データ統合」「データ品質管理」については、検討内容や打つべき施策は何か、整理できていない企業が多く見受けられる。

特に、データ利用者のユースケースと紐づけた標準化データ・モデリングの定義や、常に洗練されたデータを提供するための品質改善プロセス策定に苦労している。

昨今の金融規制対応だけではなくトップラインの拡大等、ビジネスを拡大していく上で、この2つの方針策定の高度化を継続的に追求・改善していくことが金融機関における重要なポイントとなると言える。

データプラットフォーム構想立案

データの収集や統合による最適化・一元管理・データの分析などに活用するデータプラットフォームを構築し、実際に、データ分析の高度化により業績を飛躍的に伸ばしている企業が多く見受けられる。

データプラットフォーム構想立案は、以下のポイントを抑えたアーキテクチャを検討していく必要がある。

  • 膨大なデータをよりタイムリーな情報として利用者に提供可能とする高速処理
  • 大量データの増減に対して、スピーディに対応するアーキテクチャ
  • 個人情報の漏洩等、金融機関の規定に則した堅牢なセキュリティ

まとめ

このように、データ駆動型のビジネス拡大におけるデータ利活用を推進し、利用するデータを集めてデータプラットフォームを構築する金融機関は多くあるが、活用に結びついていないケースも見受けられる。実際に、データ利用者が使い易くビジネスで活用できるデータを提供するため、弊社ではデータマネジメントの方針策定が非常に重要な検討テーマとなると考えている。

特に、「データ統合」「データ品質管理」の方針策定を重点的に行い、長期的な視点でデータ利活用のビジネス拡大実現に向けたデータプラットフォーム構築が出来ることが望ましい。

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